2013年6月15日土曜日

乱読のすすめ82-日銀の臨床実験


 










   マスコミの多くが、この間の株価や長期金利の乱高下を、日銀黒田総裁の「異次元緩和」の「副作用」だと表現しています。ほんとうでしょうか。

   医学用語辞典などによると、副作用とは、医薬品の使用によって生じる有害な結果のこと。
   医薬品は病気を治すためのものですから、副作用を承知で使用する場合もあるかもしれません。
   しかし、黒田「異次元緩和」はそもそも医薬品として認められていないのです。医薬品に認定されるには、治験薬の品質・有効性・安全性を科学的に証明しなければならず、数々の試験を経なければなりません。
 ところが、黒田「異次元緩和」は、勝手に「デフレ克服」の効能をうたっているだけで、本当に効くかどうか、現在、国民のくらしと日本経済をモルモットにして、臨床実験をおこなっている最中なのです。

 長期金利の上昇、海外投機マネーの円買い、日本株売り。わたしが4月の予算委員会で指摘したとおりになってしまいました。

  黒田総裁はこの間、「粛々(しゅくしゅく)と2%の物価上昇率達成という目標に向かうだけ」との発言を繰り返してきましたが、この先、株が下がろうが金利が上がろうが、「異次元緩和」を「粛々」と進めるつもりでしょうか。モルモットにされている国民はたまりません。


   ところで、「粛々」という言葉は、もともと、どういう意味で使われていたのか。
   漢字文化にくわしいフリーライターの円満寺二郎氏によれば、日本人がこの言葉を用いた例としても最も有名なのは、江戸後期の文人、頼山陽の「不識庵、機山を撃つの図に題す」という詩だそうです(「政治家はなぜ『粛々』を好むのか」新潮選書)。


   この詩は、川中島の合戦で、上杉謙信(不識庵)が、機山(武田信玄)に直接、斬りかかったが、一瞬の差で逃げられてしまうシーンを描いたもの。

 鞭声粛々 夜 河を渡る
 暁に見る 千兵の大牙を擁するを 
 遺恨なり十年 一剣を磨く
 流星光底  長蛇を逸す 

 ※鞭声(べんせい)…馬を打つ鞭の音   ※大牙(たいが)…本陣

   鞭の音も「粛々」と、夜、ひっそりと川を渡る。やがて空が白み始めると、大勢の武士たちが信玄の本陣を守るのが見えてきた。突撃する謙信の胸には「10年間、この瞬間のために剣を磨いてきたのだ」という思いがあふれる。流星のごとききらめきを残して振り下ろされる剣。しかし、その剣先から、信玄(長蛇)はかろうじて逃げてしまったのだ。

 この詩がルーツとなって、日本の政治家や組織の責任者などが「粛々」という言葉を好んで使うようになったとか。

 しかし昨今の「粛々」は、上杉謙信のように自信と武士(もののふ)の美学をそなえたものではなく、ほんとうは自信が揺らいでいるのに今さら引くに引けないときに使う言葉に降格してしまったようです。